研究概要 |
われわれはこれまでにヒトES/iPS細胞より種々の網膜細胞への分化誘導に成功していたが、視細胞への分化誘導に関しては4~5ヶ月という長期間の培養が必要であったため、より短期間で視細胞取得ができる新しい分化誘導法の検討をおこなってきた。前年度までの結果において、網膜前駆細胞(以下、前駆細胞)から視細胞への分化誘導ステップが条件次第で期間短縮の可能性があることを示し、また前駆細胞への遺伝子導入による視細胞誘導を検討するにあたって問題となっていた、前駆細胞の収率の低さを至適培地の検討とRARアンタゴニストの添加により克服したことを報告した。これらの結果をベースに、本年度は遺伝子導入による視細胞誘導検討を行なった。具体的には、Nrl-EGFPマウスiPS細胞からの視細胞誘導培養を行ない、前駆細胞の出現するステージ(誘導開始後7-10日)でRax, Crx, Neurod1等のcDNAを発現するレンチウイルスを感染させ、EGFPの蛍光発現を指標に視細胞(杆体)の産生を調べた。その結果、EGFPの発現は20日目以降で出現したが、これまでの検討より遺伝子導入を行なわない種々の分化誘導条件での視細胞出現時期が誘導開始後15~29日目であったことから、遺伝子導入による分化誘導促進効果は認められなかった。また、EGFP陽性細胞の割合についても、遺伝子導入を行なわない場合よりもむしろ低くなったことから誘導効率の点でも効果は認められず、遺伝子導入がNrl-EGFPの発現(つまり視細胞の誘導)に影響を及ぼしたかどうかも疑わしい結果となった。さらに最近他の研究グループより、細胞群の自己組織化を利用した極めて効率の良い分化誘導方法が発表された(Eirakuら、2011; Nakanoら、2012)ことからも、遺伝子導入によるiPS細胞からの視細胞誘導促進研究は期待される効果が低いという結論となった。
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