黄斑部は主に霊長類で発達しており、一般的な実験動物であるげっ歯類のマウスやラットには存在しない。本研究では、(1)疾患と健常カニクイザルの網膜色素上皮細胞の細胞生物学的解析を行い、疾患モデルの病理学的変化などの情報を得る。(2)遺伝子発現解析を行い、発現分子の差から、細胞内の代謝経路の違いを探る。発現量の差は疾患に直接あるいは二次的に関与するものが含まれており、これらを整理し、追試することによって、発症に直接関与する分子機構を解明する。本研究で得られる情報はヒト加齢黄斑変性症の病態解明、予防・治療法の開発にも有用と考えられる。 DNAマイクロアレーを用いた遺伝子発現解析の実験によって、ヒト加齢黄斑変性に関与する補体やケモカインなどの免疫関連遺伝子の発現が大きく変動しており、同種の遺伝子についても上昇あるいは低下しているものが観察された。これらの遺伝子は個別に遺伝子改変マウスが作製されており、黄斑変性に特徴的な網膜の表現型が観察されている。本実験においてこれらの遺伝子の発現変動幅が最も大きかったことは、疾患サルの網膜色素上皮細胞において、同様な代謝変化が起こっていると考えられる。今回疾患3頭、健常3頭から網膜色素上皮細胞を培養し、疾患個体から重篤なものと軽傷なものを選別したが、遺伝子発現もこれに連動して変化することが明らかとなった。 変動の大きかった補体やケモカインに対する阻害薬を硝子体投与した後にレザー照射誘導型の網膜新生血管モデルを作製し、その影響を検証したが、顕著な結果は得られなかった。
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