本年度は、本研究の基本となる、正常血管内皮細胞の脂肪酸解析を行った。内皮細胞は、正常ヒト臍帯静脈内皮細胞および正常ヒト冠状動脈内皮細胞とした。それぞれの細胞に対する専用培地が存在するが、今までの研究から培地の違いにより脂肪酸組成が大きく変化することが分かっていたため、それぞれの細胞に対して2種類ずつの培地(正常ヒト臍帯静脈内皮細胞専用培地および正常ヒト冠状動脈内皮細胞専用培地)で培養を行い、得られた内皮細胞に対し細胞膜脂肪酸および全組織内脂肪酸の解析を行った。2検体に対して行ったところ、(1)正常ヒト冠状動脈内皮細胞専用培地での培養細胞のほうが、必須脂肪酸含有率が高くなる、(2)正常ヒト臍帯静脈内皮細胞よりも正常ヒト冠状動脈内皮細胞のほうが必須脂肪酸含有率が高くなる、以上の傾向がみられた。培地にはウシ胎児血清濃度とヘパリン添加の有無という2点の違い(正常ヒト冠状動脈内皮細胞専用培地のほうがウシ胎児血清濃度が高く、正常ヒト臍帯静脈内皮細胞専用培地にはヘパリンが添加されている)がある。ウシ胎児血清には脂肪酸が含まれており、ウシ胎児血清濃度が高い培地で必須脂肪酸含有率が高くなったことはこのことが関与していると思われた。(2)からは同じ内皮細胞でも血管の種類によって脂肪酸組成が異なることが示唆された。これは脂肪酸組成が血管の形態・機能に大きな影響を及ぼしている可能性を示唆することとなり、重要な結果といえる。まだ2検体のみでの傾向のため、検体数を増やして検討していきたい。
|