脂肪由来幹細胞(ADSC)は神経系細胞に分化する能力をもつとされるが、一方で創傷治癒に関連する多くの因子を放出していることも報告されている。そこであらかじめシュワン細胞に分化させたADSCの末梢神経再生利用が期待されているが、その機序や効果については不明な点が多い。最近では分化誘導を行わないundifferentiated ADSC(uADSC)も同様の能力を持つことが指摘され、神経分化誘導の必要性も議論となっている。本研究においては、より臨床に用いやすいuADSCの末梢神経再生利用の可能性について検討するとともに、dADSCの有用性についても併せて検討した。まず培養系においてADSCは採取部位・年齢の細胞特性にほぼ差がなく均一な特性を維持していることがわかった。また、uADSCはシュワン細胞の生存・増殖または後根神経節細胞の生存・突起伸長を促す高い能力を有することが示され、実際にこれらの作用に関与すると考えられる候補分子の発現もみとめた。uADSC 、dADSCはともにシュワン細胞とほぼ同等の高い神経突起伸長促進能を示したが、両者の差は著明ではなかった。次にin vivoにおける組織学的、行動学的検討からも、uADSCによる高い神経再生効果が確認され、特にdADSCの明らかな優位性は認められなかった。2種類のリポーター蛍光蛋白質で経時的にシュワン細胞への分化をモニタリング可能な遺伝子改変マウスを用いた移植ADSCの生体内での運命追跡の検討では、移植後3週間の移植細胞の生存が確認されたものの、シュワン細胞への分化は確認できなかった。 このことから、移植したADSCが細胞環境(niche)によってシュワン細胞に分化するのではなく、神経再生関連因子を産生・放出するmolucular factoryとして機能することで末梢神経再生に寄与していることが示唆された。
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