平成22年の実験で新鮮遺体の下肢のリンパ管造影に成功し、さらにMDCT(multi detector computed tomography)を用いて造影した下肢の三次元画像の取得に成功した。その手法を引き続き使用してリンパ管造営した下肢の検体数をさらに5つ増やすことができた。さらに研究者の手技の向上により、今までよりも広範囲のリンパ管を造影することに成功した。 具体的には造影剤注入時にガラス管と35G針を組み合わせることにより、表皮直下の毛細リンパ管の造影が可能となり、下腿全域でのリンパ管造影が可能となった。特に下腿や大腿外側を起始とするリンパ管の造影の発表例はほとんどない。下腿外層、大腿外側のリンパ流は本来下腿の主流なリンパ経路としては存在していないが、リンパ浮腫においてはリンパの迂回路としての役割を持つ可能性があり、その走行は臨床的意義が高いと考える。 既にこれまでの実験により下肢には大伏在、小伏在静脈に沿った二つのリンパ流があることが把握できているが、今回症例を積み重ねるにつれ、一部の症例では踵周囲のリンパ流も大伏在静脈に沿ったリンパ流に注ぐ可能性が示された。これに関する記述も今のところ認めない。これは鼠径部におけるセンチネルリンパ節と対応領域に関する新しい知見となりうる。 さらに、今回の実験では目的としていなかったが、リンパ浮腫を呈した新鮮遺体を入手することができ、リンパ浮腫におけるリンパ管の形態的変化をとらえることができた。さらに毛細リンパ管内への造影剤の逆流を認め、詳細な真皮内のリンパ管網の画像データを得ることに成功した。 新鮮遺体を用いたリンパ浮腫症例の実験例はほとんど報告がないため臨床でのリンパ浮腫治療における貴重なデータとなる。
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