線維芽細胞と神経細胞の閉鎖陰圧環境下での相互作用を調査するためにラットの皮膚線維芽細胞及びラットの副腎褐色細胞腫の細胞株であるPC12細胞を用意した。PC12細胞はNGF刺激により交感神経細胞様に分化する。線維芽細胞とNGF刺激をしたPC12細胞を共培養の状態でコラーゲンゲル内に包埋し、コラーゲンゲルコントラクションアッセイを施行した。グループ1は大気圧、グループ2は100cmH_2Oの持続陰圧、グループ3は100cmH_2Oの1分吸引1分休止の間欠的陰圧、グループ4は100cmH_2Oの3分吸引3分休止の間欠的陰圧で培養した。結果、グループ4>グループ3>グループ1=グループ2の順で収縮を示した。グループ4のみがグループ1に対し有意に収縮を示した。これらの結果より間欠的な閉鎖陰圧環境の方が大気圧下の環境より線維芽細胞及びPC12細胞を刺激しそうコラーゲンゲルの収縮を促進することが分かった。 次に、閉鎖陰圧環境下での細菌の増殖能について調査した。閉鎖陰圧環境は創部の健康な細胞のみでなく細菌にとっても増殖しやすい環境である可能性がある。閉鎖陰圧療法を施行するときには創部はフィルムで閉鎖されるため創内の細菌が閉鎖環境下で増殖する危険性がある。そこで上記の各種閉鎖陰圧環境下における細菌の増殖速度を非病原性大腸菌を用いて調査した。大腸菌を液体LB培地内で培養し、細胞増殖試薬WST-1を用いて経時的に液体LB培地内の大腸菌の相対量を測定した。結果、反応開始から4時間、5時間の段階でグループ3、グループ4、グループ2、グループ1の順で大腸菌は有意に増殖していた。これにより閉鎖陰圧環境は創治癒に関わる健康な細胞にだけ影響するわけでなく、創部に存在する細菌にも影響し、増殖を促進する可能性が示唆された。しかし、大腸菌は通性嫌気性菌であるため、黄色ブドウ球菌、緑膿菌など他の細菌では結果が異なる可能性があるため更なる調査が必要であると思われた。
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