本研究は、脂質メタボロームの手法を用いてインフルエンザウイルス感染に伴う生理活性脂質の包括的動態解析を行い、リン脂質代謝酵素ホスホリパーゼA_2(PLA_2)遺伝子群の病態生理学的意義の解明を目指す研究である。平成22年度には、(1)感染によって発現が誘導される細胞質型PLA_2(Inducible cPLA_2)をはじめとする脂質代謝関連遺伝子群の発現パターンの解析(2)in vitroでのインフルエンザ感染実験系の確立と予備データの取得(3)質量分析計による脂質メタボローム解析の3つの研究を実施する計画であった。いずれの項目に関しても計画通りに遂行することができた。(1)に関しては、インフルエンザウイルス感染肺における経時的な遺伝子発現を定量的PCR法とマイクロアレイ法によって解析した。その結果、Inducible cPLA2と同様に感染後48時間後に発現誘導のピークが認められる遺伝子を見いだした。これらの遺伝子はInducible cPLA_2と協調して生理活性脂質産生に関与している可能性が考えられる。また、(2)に関して、ヒト肺胞上皮細胞株(A549)とマウス誘導性腹腔マクロファージを用いた実験系の確立に成功している。(3)の質量分析計による脂質メタボローム解析に関しては、網羅的に測定した多数の代謝物の中から特徴的な挙動を示す数種のメディエーターに着目しており、すでに平成23年度に計画している「PLA_2に関連したリン脂質代謝系の人為的な制御による治療の可能性の検討」に着手している。
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