申請者は脳動脈の閉塞や恒常性の破綻に起因する脳卒中など、急性脳障害における細胞内での初期脂質代謝酵素群シグナル伝達の解明を目的として、一年目および二年目より引き続き以下の研究を行った。 リン脂質代謝酵素の一つであるジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)ζが虚血処理後ラット海馬ニューロンおよびカイニン酸誘導性痙攣モデルのマウス海馬ニューロンにおいて速やかに核内から消失し、その後細胞質にてタンパク質の分解が起きることを明らかにした。これはHEK293細胞を用いた再構成系の実験から、DGKζがポリユビキチン化されること、核内輸送シグナルを欠失したDGKζではポリユビキチン化が顕著に起きることが示唆され、マウス海馬ニューロンにおいても内在性DGKζ がポリユビキチン化されることを明らかにした。DGKζノックアウトマウス由来神経細胞を用いて興奮毒性処理を行うと、野生型に比べ細胞死が誘導されやすくなること、個体においても、DGKζノックアウトマウスはカイニン酸処理における癲癇誘導が引き起こされやすく、そのメカニズムの一端として、Rb遺伝子産物のリン酸化 (Ser807/811)のリン酸化が更新し、通常細胞周期が停止している海馬ニューロンがS期に移行すること細胞周期停止機構が破綻し、細胞死開始が早まっていることを明らかにした。これらの研究成果を国際誌に投稿し、受理された。
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