本研究では救命救急センター搬入患者血漿からDNAを抽出し、癌分野などで診断マーカーとして検討されている血漿遊離DNAを新規の重症度判定マーカーとして、救急領域での利用が可能かを模索するものである。血漿遊離DNAの定量はヒトβグロビン遺伝子をスタンダードに用い、6.6 pgのDNAを1 GE(genome equivalents)として解析した。平成24年度は、好中球が自らのDNAを細胞外へと放出し、細菌などを血中で捕捉する働きが注目され、好中球機能への関心が高まった。本研究においても、敗血症における血漿遊離DNAとの関連が重要視され始めたため、対象疾患を敗血症に絞り、好中球数と血漿遊離DNAに関する検討を詳細に行った。結果、敗血症患者では死亡例において好中球数や搬入後5日間の平均血漿遊離DNAはむしろ生存例に比べてやや少ない傾向が見られた。経時的に観察すると、血漿遊離DNAは搬入後3日目あたりにピークを迎え、その後は減少していることが明らかとなった。また、生存例における血漿遊離DNAの5日間の推移は、緊急手術が有りの場合には無しの場合に比べて有意に低く推移するのに対し、死亡例では緊急手術の有無に有意な差は見られなかった。これらの研究成果を国際ショック学会で"The relationship between cell-free plasma DNA concentration and mortality of ICU patients"の題名でポスター発表を行い、好中球と血漿遊離DNAの関連について、カナダや米国の研究者と意見交換を行った。また、好中球数と血漿遊離DNAの性差についても検討を行い、女性では血漿遊離DNAが多い傾向が確認された。平成24年度は敗血症に絞っての検討となったため、被験者数が少ないことから、これらの研究結果を基に今後さらに検討が必要であると考えている。
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