グルタミン酸は興奮性神経伝達物質のひとつであり、小胞性グルタミン酸輸送体(VGLUT)によってシナプス小胞へ輸送される。VGLUTには現在のところ3つの異なるサブユニット(VGLUT1、VGLUT2、VGLUT3)がみとめられており脳内における局在は部位によってことなることが明らかとなっている。これまでにVGLUTはシナプス小胞の存在する部位のみならず、四肢の筋紡錘などの末梢感覚受容器にも認められることが報告されているが、その機能は未だ解明されていない。本研究においては口腔感覚をつかさどる三叉神経領域の感覚受容器におけるVGLUTの発現の局在を検討した。顎反射に関与する歯根膜機械受容器にはVGLUT1ならびにVGLUT2の局在がみとめられた。それを支配するニューロンは三叉神経中脳路核ニューロンと三叉神経節ニューロンである。三叉神経中脳路核ニューロンではVGLUT1のみが強く発現しておりVGLUT2、VGLUT3の発現は免疫組織化学的手法ではみとめられなかった。そこでレーザーマイクロダイセクション法により三叉神経中脳路核ニューロンの細胞体を切り出し、RT-PCRを行ったところ、VGLUT1、VGLUT2、VGLUT3ともに遺伝子発現が確認できた。このことはタンパクレベルでは検出できない量であっても遺伝子レベルにおいてはVGLUT1、VGLUT2、VGLUT3のRNAが存在することを示している。また歯根膜機械受容器のもう一方の支配ニューロンである三叉神経節ニューロンにおいてはタンパクレベル、遺伝子レベルの両方においてVGLUT1、VGLUT2、VGLUT3のすべてのサブタイプが確認できた。これらのことから歯根膜機械受容器におけるVGLUT2陽性神経線維は三叉神経節由来であることが示唆される。電子顕微鏡における歯根膜機械受容器の観察では小胞様構造がみとめられ、その膜の周囲に強い免疫反応が認められた。このことは小胞性アミノ酸輸送体であるVGLUTがシナプス小胞以外の小胞膜においても局在し、アミノ酸輸送の働きをしているものと考えられる。
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