【目的】 頭頸部扁平上皮癌の発生には種々の癌遺伝子・癌抑制遺伝子の異常の蓄積が関わっていると考えられるが、決定的な因子は同定されていない。我々は頭頸部扁平上皮癌における癌関連遺伝子候補の検索を継続して行い、癌の発生や進展に重要な役割を果たす新規癌抑制遺伝子候補としてDKK遺伝子ファミリーに注目した。本研究では、DKK遺伝子ファミリーの中でも、特に重要な機能を有すると考えられるDKK-3のタンパク発現、mRNA発現を検討し、腫瘍制禦への応用のための基礎研究とすることを目的としている。 【結果】 本年度は頭頸部扁平上皮癌組織でのDKK-3タンパク発現と臨床データとの相関を検討した。岡山大学病院病理部口腔病理診断部門で取り扱った頭頸部扁平上皮癌症例90例を用いて、DKK-3タンパクの発現と局在を検討した。DKK-3タンパクは扁平上皮癌細胞において強発現を示し、76例(84.4%)でタンパク発現を認めた。また、転移リンパ節においても検索し得た症例の全てでDKK-3タンパク発現を認めた。 これらの知見は、これまで消化管の腺癌や前立腺癌でのDKK-3発現の報告とは異なり、DKK-3が頭頸部扁平上皮癌で特異的に高発現を示す可能性が示唆された。 【考察】 DKK-3は癌抑制遺伝子であり、消化管の腺癌では発現が現弱していると考えられてきた。しかし本研究の結果からは、頭頸部扁平上皮癌におけるDKK-3発現はこれまで他臓器の癌での報告とは異っており、同遺伝子が未知の機能を有している可能性が示唆された。この結果は頭頸部扁平上皮癌の転移制禦に関わる基礎研究として重要である。これまでの成果は学会にて発表を行った。今後は臨床データとの相関について詳細な検討を行う。
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