F-spondin(SPON1)はセメント芽細胞マーカー遺伝子として我々が注目してきた遺伝子で、これまでにin vitroでSPON1がセメント芽細胞分化を促進することを報告してきた。そこで、本研究ではSPON1のセメント質形成における役割をin vivoで明らかにするため、本年度は発現部位を特定せずにSPON1を過剰発現させたトランスジェニックマウス(SPON1-Tgマウス)を作製した。まず、発現コンストラクトを作製し、このコンストラクトをマウス受精卵にマイクロインジェクションして、ファウンダーマウスを得た。さらに、交配を行い、現在、Tgマウスの系統化を行っているところである。SPON1は主に脳で発現し、軸索部での分泌や接着に関るとの報告があるため、神経系への影響が予測されたが、繁殖中のSPON1-Tgマウスに行動異常は認められていない。今後は、SPON1-Tgマウスを用いて組織学的検討を行っていく予定である。 また、近年、SPON1発現は関節炎組織で発現し、炎症との関連が示唆された事から、歯周組織の炎症にも関与する可能性がある。そこで、SPON1を発現しているセメント芽細胞を用い、歯周病原細菌由来LPS刺激によるSPON1発現と炎症性サイトカイン発現についてin vitroにおいて検討を行った。LPSはSPONIの発現を著しく増加させ、IL-1bやTNF-aの発現は軽度に増加したが、有意差は認められなかった。一方、IL-6の発現はLPS刺激により著しく減少した。また、石灰化関連遺伝子であるタイプIコラーゲンやアルカリフォスファターゼ、オステオカルシン、BMP-7の発現は増加した。LPSはSPON1の発現を増加させたことから、LPS・TLR4経路がSPON1の発現に関与する可能性が示唆された。現在、LPSの誘導するSPON1発現増強と炎症性サイトカインや石灰化遺伝子の発現との関連性についてsiRNAを用いて詳細に検討しているところである。以上の結果より、SPON1は石灰化促進だけでなく、炎症時においても機能している可能性があることが示された。今後は、TLR4経路を介したSPON1の発現のメカニズムやSPON1による炎症性サイトカインの発現調節機構について解析を進めていく。
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