癌幹細胞の存在は、癌細胞は無限の増殖能を有し、全く均一の機能を持つという、癌細胞の特性の一般的な考え方とは対称的である。癌幹細胞の存在は薬剤・放射線抵抗性を示すこと、転移や浸潤能に関与すると考えられており、口腔癌における癌幹細胞の同定は予後の予測、治療法の選択において重要な因子と考えられる。そこで本研究では、ヒト口腔扁平上皮癌における癌幹細胞の樹立・同定とその遺伝子解析を行うことにした。本研究では、以下の方法を用いて研究を行った。(1)培養細胞株におけるSP細胞の含有率の検討。(2)コロニー形成能の検討。(3)網羅的遺伝子解析を行った。(4)免疫組織学的検討を行った。癌幹細胞の同定には本教室で樹立したヒト口腔扁平上皮癌細胞株17株を用いた。結果、(1)SP分画細胞含有率は13株において1%、3株においては1%以上5%未満、1株においては約16%のSP細胞を含むことが示された。(2)このSP細胞含有率の高かった細胞株(Tosca23S)は無血清培地下で4週間培養を行うと幹細胞特有のコロニー形成が認められた。SP細胞含有率の低い細胞株においては同条件においてコロニー形成能は認めず、細胞は死滅することが示された。(3)コロニー形成細胞を抽出しマイクロアレー解析を行った結果、これらの細胞は頭頸部腫瘍における癌幹細胞マーカーの一つと考えられているCD44 hightCD24lowであり、さらに毛包幹細胞マーカー、表皮における幹細胞マーカーの一つと考えられるkeratin34が母細胞に比べ5倍以上の発現上昇が見られた。免疫染色法を用いてkeratin34の発現を検討した結果、口腔扁平上皮癌における浸潤先端部に一致してその発現増強がみられ、されに分化度が低い細胞には強い発現が見出された。以上の結果より、keratin34は口腔扁平上皮癌における癌幹細胞マーカーの一つになりえる可能性と、口腔扁平上皮癌における分化度の指標の一つになる可能性が見出された。
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