本研究の目的は、口腔顔面癌モデルラットにおいて発生する癌性疼痛のメカニズムとして1次・2次求心性神経における変動を電気生理学的・生化学的に見出すことにある。神経トレーサー遺伝子を導入した移植癌細胞を使用することで、癌性疼痛に関与する神経の電気生理学的特徴や遺伝子発現、タンパク変動を網羅的に調べる。加えて、2次求心性神経に変調を与える可能性のある中枢グリア細胞の変化を調べるために、組織化学・生化学的手法を用いて調査し、その裏付けとなる電気生理学的・薬理学的な証拠を得ることにある。癌性疼痛に関わるメカニズムの解明は、癌性疼痛発生の病理学的メカニズムを明らかにするとともに、難治性である癌性疼痛に対する効果的な鎮痛方法を提示出来るかもしれない。 1次感覚求心性神経は痛みだけではなく、触覚や痒み等多くの非侵害性情報の伝達にもかかわり、痛みも10種以上のクラスに分類される。すなわち、単離して得られる三叉神経節ニューロンは多くの異なる機能を有した細胞群の集まりであり、得られた結果の解釈には注意が必要となる。そこで、我々はトレーサーでラベルされた細胞の記録を行う前に、後根神経節ニューロンで用いられる電気生理学的細胞分類法が三叉神経節ニューロンでも可能かどうかを検討し、報告した。この方法と組み合わせて、今後は癌性疼痛に関わる三叉神経節ニューロンの電気生理学的変調について明らかにする予定である。さらに、口腔顔面癌モデルラットの癌性疼痛発生初期に中枢グリア細胞の活性化が関わっていることを明らかにし、報告する事ができた。この論文にて、中枢グリア活性を抑制することで知られるプロペントフィリンの癌細胞接種前からの連日投与によりが効果的に癌性疼痛を抑制する事を示した。
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