ガン性疼痛に関する研究のほとんどは足を支配する坐骨神経領域で行われており、口腔顔面領域ではほとんど研究されていなかった。口腔顔面領域は摂食時に頻繁に刺激を受けるため、異常疼痛が発症すると食欲不振になり、体幹部のガンよりも口腔顔面ガンは重篤な症状を示す。そこで我々の研究グループは新規に顔面癌モデルラットを作成し、異常疼痛(異種性痛覚や痛覚過敏)が早期に発症し、後期には食欲不振になることを報告していた。本研究課題では、このモデルにおけるガン性疼痛の発症メカニズムを明らかにすることである。前年度には口腔顔面領域を支配する三叉神経節ニューロンの電気生理学的性質について明らかにし、モデル作成に使用される接種ガン細胞に神経トレーサー遺伝子を組み込むことに成功した。さらに、炎症や神経障害による異常疼痛発症メカニズムとして知られる神経ペプチドの発現増加は、このモデルには関与しないことも明らかにした。 平成23年度において、我々は顔面癌モデルラットに誘発される異常疼痛の発症には中枢グリア細胞の活性化が関与することを明らかにした。三叉神経節ニューロンの投射先である三叉神経脊髄路核尾側亜核においてミクログリアとアストロサイトが活性型になって細胞増殖を起こし、プロペントフィリンという中枢グリア細胞の活性化抑制薬の事前投与にて異常疼痛や自発痛の発症を抑制できること示した。さらに、ミクログリア活性化は一過性に引き起こされ、その後に続いてアストロサイトが持続的に活性化することが分かった。グリアの活性化は脳幹において拡大するため、ガンの発症していない顔面領域にさえも異常疼痛が発症しうることが分かった。これらの結果は、臨床において顔面癌による異常疼痛に対して、中枢グリア細胞を標的とした治療法が有効であることを示唆している。
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