本研究は迷走神経の求心性刺激を用いた咀嚼筋の血流改善法の確立に必要とされる基盤的データを得ることを目的とし、本年度(平成23年度)は迷走神経の求心性入力による咀嚼筋の血流増加反応の中枢性神経機構について検討した。その結果、1)頸部迷走神経の求心性刺激で生じる咀嚼筋(咬筋)の副交感神経性血管拡張反応は脳幹の孤束核を介している、2)咬筋の副交感神経性血管拡張反応は孤束核へのGABA_A及びGABA_B受容体のアゴニスト(ムシモールとバクロフェン)の微量注入により顕著に抑制される、3)この血管拡張反応は三叉神経領域の侵害入力により顕著に抑制される、及び4)この抑制作用には孤束核のGABA_B受容体が関与することが明らかになった。したがって、孤束核は咀嚼筋の反射性血管拡張反応による血流増加に重要であり、孤束核におけるGABA受容体の活性化は咀嚼筋の血管拡張反応の中枢抑制作用に重要なメカニズムであることが示唆された。 咀嚼筋の慢性的な血流障害とGABA受容体の質的及び量的変化との関連性ついては不明な点が多いが、長期的なGABA入力或いは侵害入力は中枢神経系におけるGABA_B受容体の発現量を増加させることが報告されている。また、皮膚に対する侵害刺激はFos(最初期遺伝子)とGABA_B受容体に共染色される孤束核のニューロン数を増加させることも明らかにされている。したがって、これら中枢神経系のGABA受容体の可塑的変化は咀嚼筋の慢性的な血流障害の病因に重要な役割を演じており、これらをターゲットとした研究を今後展開していくことで、顎・顔面・頭部領域の血流障害及びそれに伴う機能障害の新たな治療法の可能性を導くことが期待される。
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