本研究の目的は、歯肉上皮細胞に発現する免疫抑制補助シグナル分子B7-H1の歯周病の病態形成における役割を明らかにすることである。皮膚は発癌物質であるメチルコラントレンやTPAによって早期に誘導される皮膚炎症応答は、角化上皮細胞に強発現させたB7-H1トランスジェニックマウス(B7-H1Tg)では野生型マウスに比して明らかに抑制されていた。同マウス歯肉上皮細胞にも強いB7-H1発現が組織染色において確認できた.病原性の強いPorphyromonas gingivalis(Pg)菌株であるTDC60あるいは炎症惹起剤としてTPAの歯肉塗布後の歯肉上皮早期炎症応答をTgと野生型で比較した.皮膚と違って、TPA塗布では歯肉上皮下における炎症細胞浸潤は両群共に観察されなかったが、B7-H1Tgマウスにおいて、明らかな上皮細胞層の肥厚が観察され、これは特に有棘層において顕著であった。Pg塗布の場合でも、ほぼ同様で上皮細胞自体の肥大と間質乳頭の増大が観察された.B7-H1tgにおける歯周病発症を検討する前段階として、TDC60菌株を用いて、野生型BALB/cマウスで歯周病モデル構築を試みた。抗生物質前投与マウスの下顎頬側歯肉にTDC60 10^9CFUを2日おきに3回塗布し7週後に評価した.歯槽骨吸収は軟組織溶出後にイメージ写真を取り込み定量化することができたが、陰性対照群においても歯槽骨吸収は生じており、有意の差には至らなかった。また、血清および歯肉溝滲出液(GCF)を採取しPg菌特異的IgGを測定したところ、Pg塗布群では、抗体価上昇した個体が観察され、血清とGCFでは同様の動きが認められた.7週後の歯肉組織やGCFにおけるTDC60菌存在の確認がPCRでは確認できず、免疫応答により長期の感染が成立していない可能性が示唆され、現在条件検討中である。
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