歯周病はProphyromonous gingivalis(Pg)などの口腔常在菌による歯性感染症であり、歯周病の病態は宿主免疫系と細菌プラークとの間に谷足れている平衡状態が破綻することで生じるある種の免疫疾患とも考えられる。ヒト高病原性Pg菌であるTCD60を歯肉に塗布することにより誘導される歯肉炎症と歯周病への進行をマウスモデルで観察し、応答に関わる免疫抑制分子B7-H1の関与を明確にすることが本研究の目的であった。野生型マウスを用いた実験では、塗布後2週で血中Pg特異的IgG抗体価の上昇が認められたが、個体により差が生じ、6週後における歯槽骨吸収の程度とPg特異的IgG抗体価および歯肉組織のTNF-α発現に正の相関が認められた。TおよびB細胞の存在しないRag2欠損マウスでは、歯槽骨吸収は認められなかったことから、適応免疫系は歯槽骨吸収促進的に働いている可能性が示唆された。歯槽骨吸収有無の違いがどのような理由によるかを調べるために、抗体価の上昇しない個体では、粘膜免疫システムによる菌の積極的排除あるいは寛容誘導がおこっているのではないかと仮説をたて、Pg菌経口投与後歯肉感染を行ったが、個体差は相変わらず認められより顕著になる傾向が認められた。現在、粘膜免疫応答が歯肉炎から歯周病への転換に関与していることも念頭におきつつ、Pg菌の反復塗布による早期歯肉炎病態と後期の歯槽骨吸収病変における免疫抑制分子B7-H1:PD-1の関与を調べるために、上皮角化細胞にB7-H1を過剰発現させたトランスジェニックマウスおよびB7-H1/PD-1ダブルノックアウトマウスを用いての比較実験を実施中である。
|