平成25年度は、腫瘍抗原MUC1と補体成分のC3の断片であるC3dの融合タンパクを精製し、MUC1に対するCTLの誘導を試みた。MUC1-C3dを添加して培養した末梢血リンパ球(PBMC)は、フローサイトメトリー法により解析したところ、約39.6%のCD8+細胞が認められたのに対し、MUC1のみを添加した培地では、26.2%と、何も添加しない培地で培養した場合(27.4%)と同等であった。また、全体の細胞数は、MUC1-C3dを添加して培養したPBMCでは、MUC1のみ添加して培養したPBMCに対して、1.78倍と増加していた。次に、MUC1-C3dを添加して培養したPBMCよりCD8+細胞を分取した。検体とHLAが適合した口腔癌細胞がなかったため、ヒト乳癌細胞株であるMCF7と共培養し、IFN-γの産生をELISPOT法により解析した。MUC1-C3dで刺激したPBMC由来のCD8+細胞は、MUC1で刺激したPBMC由来のCD8+細胞より、1.7倍のIFN-γの産生細胞が認められた。 これらIFN-γの産生細胞が、MUC1に対して特異的な細胞かどうかを確認するために、MUC1を発現したLCL (Epstein-Barr virus transformed B lymphoblastoid cell line)を作成した。作成したMUC1発現LCL(LCL-MUC1)を標的細胞に、分取したCD8+細胞をエフェクター細胞にして、IFN-γの産生をELISPOT法により解析したところ、MUC1の発現していないLCLに対して、LCL-MUC1を標的細胞にした場合は、1.7倍のIFN-γの産生細胞が認められた。これらの事から、C3dと癌抗原MUC1と融合させることにより、効率の良いアジュバントとして働き、癌に寛容になっている癌患者において抗体応答のみならず細胞性免疫を誘導できる可能性を示した。
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