研究概要 |
シェーグレン症候群(SS)患者の口腔内は単に乾燥するだけでなく、粘膜の萎縮、舌乳頭平低化などが起こりQOL低下を招く。これに関与する因子として唾液腺で産生され、消化管粘膜の保護作用や組織修復に促進的な役割を果たしているとされる唾液中epidermal growth factor (EGF)の関連性を検討し、将来の治療介入の可能性を追求することを目的とするものである。 対象はSS患者47人から口腔内病変の形成、唾液・EGFの分泌に影響し得る要因を有する者を除外した39人(1°SS26人、2°SS13人)とコントロール群として非SS 22人。ガム試験で採取した唾液の質量、EGF濃度(ELISA法yおよびoral health impact profile(OHIP)の簡易版(OHIP-14)を用いた口腔内病変のスコアとの関連性を検討した。SS群では非SS群に比べ唾液中EGF量が有意に少なく(p=0.049)、唾液中EGF量は唾液分泌量と正の相関を示した(rs=0.63,p<0.01)。ムスカリン受容体刺激薬やステロイド薬、免疫抑制薬を服用していない患者群ではより強い相関が見られた(rs=0.80,p=0.001)。OHIP-14スコアと唾液量、EGF濃度、EGF量の間に:負の相関を認めた(rs=0.63,P=0.03;rs=0.73,p=0.01;rs=0.75,p=0.01)。罹病期間とEGF量との間に負の相関が見られた(rs=0.47,p=0.008)。 この結果よりSSでは進行に伴い唾液腺の分泌能が低下すると、唾液分泌量のみでなく、唾液中へのEGF分泌量も低下することが示された。さらに、唾液中EGF濃度およびEGF量の低下は唾液分泌量同様またはそれ以上に口腔内QOLの低下に関連し得ることが示された。EGFの低下により口腔内病変の修復の遷延化が生じ、SSでは口腔内病変の慢性化・重症化・難治化を来すもの考えられる。つまり、SSにおける口腔内病変の形成には唾液分泌量低下による口腔内クリアランス低下に加え、唾液中EGFの低下という唾液の質および機能の低下が関与している可能性が示唆された。
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