Porphyromonas gingivalisは主たる歯周病原細菌であり、近年は動脈硬化や心疾患の発症、早産の誘発などにも関与することが示されている。本疾患形成には、バイオフィルム形成が関与すると考えられ、本研究ではヘマグルチンであるHagBのバイオフィルム形成等への関与について検討した。ヘマグルチニンをコードするhagB遺伝子を欠失させた変異株を作成し、バイオフィルム形成能を調べたところ、野生株に比べて低下していた。またHagB抗体を用いたウエスタンブロット解析では、野生株と糖生合成変異株であるgalE株との比較において、HagBタンパクは、野生株に比べgalE株では分子量がわずかに小さいバンドとして観察された。また野生株HagBは、トリフルオロメタンスルホン酸による化学的脱糖化処理によっても分子量が低下したことから、HagBは糖タンパクであることが明らかとなった。このHagBの糖鎖修飾部位を同定するため、HagBのアミノ酸配列を調べたところN結合型糖鎖のコンセンサスは存在しなった。一方、O結合型糖鎖のコンセンサスは33残基存在していた。近年、O結合型糖鎖のコンセンサス(D[S/T]A/I/L/M/T/V)がBacteroides属にのみ保存されていると報告された。Porphyromonas属とBacteroides属は同じCFBグループに分類される近縁属であり、このコンセンサス配列がP. gingivalisのHagBに存在するかどうか調べたところ、候補の33残基のうち、1残基がこの条件を満たしていた。現在、site-directed mutagenesisにより一アミノ酸置換変異株を得て、この部位がHagB糖鎖の結合部位であるか、またバイオフィルム形成に修飾糖鎖が関与しているかどうかについて調査している。
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