Tsuchiyaら(2003)は、ウシ歯根部象牙質を用い、根面と修復したコンポジットレジン周囲の2次う蝕の発生を想定し、コンポジットレジンと象牙質との周囲を人工脱灰液を用いて、人工2次う蝕を発生させて、その微小構造をSEM観察した。その結果、2次う蝕の発生の様相は用いた接着材料により異なり、樹脂含浸層の直下に酸・塩基抵抗層(Acid-Base Resistant Zone、ABRZ)と呼ばれる新しい層が観察された。井上(申請者)らはこの方法を改良することにより、SEMを用いて人工2次う蝕による接着界面の変化により、明瞭に観察する方法を確立するに到った。この方法を用いて、接着性コンポジットレジン修復周囲における2次う蝕のSEM観察を行ったところ、ABRZの形態をより明瞭に観察することができた。これにより、健全歯とう蝕歯ではABRZそのものの形態に違いが見られ、またそれぞれの微小硬さの違いから、接着による歯質保護が2次う蝕を抑制している結果が得られた。また、フッ素徐放能を有するセルフエッチングプライマーボンディングシステムのABRZの観察から、フッ素徐放の有無により、ABRZの形態に変化が認められることが分かった。この流れを基に行われた本研究ではフッ素が接着界面に対してどの程度浸透し、その影響がどのような形で効果として現れるかが分かり、発表に至った。これにより不明であったABRZの特性が少しずつ解明されてきた。
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