研究概要 |
有床義歯装着患者の義歯安定剤の使用による咀嚼機能や発話機能の変化について客観的機能評価方法を用いて調べ,その効果や危険性について明らかにすることを目的とし,本研究では,特に有床義歯の安定が難しいとされている頭頸部腫瘍切除後の顎義歯装着患者(上顎骨切除患者,下顎骨切除患者,舌切除患者)を被験者とし,装着された顎義歯を対象に義歯安定剤を使用し,ワックスキューブを用いた客観的咀嚼機能評価を行い,また音響分析を用いた客観的発話機能評価を行い,その効果や危険性について明らかにすることを目的とした. 顎義歯装着患者のうち,義歯安定剤を常用していない上顎無歯顎の上顎骨切除患者で欠損形態がアラマニー分類I,II,IVの患者を被験者とし,義歯安定剤使用前後の咀嚼混合能力を比較した.その結果,クリープタイプの義歯安定剤を健常側の義歯粘膜面に使用することで咀嚼混合能力が有意に上昇したことから,義歯安定剤により咀嚼機能が向上することが示唆された. 一方,本研究期間内において,クリープタイプの義歯安定剤を常用している上顎無歯顎の上顎骨切除患者の約6か月ごとの検診を実施したが,著名な粘膜炎や咬合関係の変化は認めなかった. 本研究結果より,クリームタイプの義歯安定剤を使用することで,ある一定の咀嚼機能の向上が期待できると考えられた.ただし,患者の自己判断による義歯安定剤の使用は,重篤な粘膜炎や骨吸収などを引き起こす可能性があるため,歯科医師の指導の下,使用することが望ましいと考えられる.またクッションタイプの義歯安定剤は,咬合関係に大きな影響を与えると考えられるので,その使用は控えるべきである.
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