研究課題
被験者は、本学義歯外来を受診した患者のうち、歯科医学的に症状に相応する異常が認められず歯科心身症が疑われる患者および、本学歯科心身症外来に、咬合異常感、義歯不適応症など補綴的な愁訴で紹介受診した患者とした。新患だけでなく、外来で補綴処置がスムーズに進行せず、通常歯科医の常識から考えて明らかに治療が長引いている患者も被験者とした。既往に明らかな精神障害を有するものは除外して対象患者を絞り込んだ。特に、近縁疾患とされる感情障害、不安障害や心気症などの合併例については、必要に応じて専門科への対診を行い慎重な検討を行った。患者の症状は、従来の歯科医学の見地からは十分に説明しきれないという点で酷似していたが、その訴えには多様性があり単純なカテゴライズは困難なことがあらためて認識された。ただ、多くの患者は補綴治療を契機に発症しており、補綴専門医のもとを転々として治療を繰り返した結果さらに症状の遷延を招いていた。近年の傾向として欠損補綴にはインプラント治療が選択されることが多くなったが、インプラント治療を契機に発症した舌痛症、咬合異常感の予後は特に不良な印象を得た。これは、体内に金属体を半永久的に埋入固定したままにするというインプラント治療自体の特殊性と、単価の高さから開業医でのトラブルが発生しやすく発症後のケアの困難さの両面が関与していると考えられた。舌痛症の治療には従来三環系抗うつ薬およびSSRIが効果的に用いられてきたが、より副作用が少なく高い効果を発揮するSNRIの用量効果関係も検討されたことで、臨床における治療の選択肢が広がった。
2: おおむね順調に進展している
酷似しているようで歯科心身症の症状には微妙なバリエーションがあり、薬物療法への反応性、忍容性、副作用の出現に個人差が大きいことがわかってきた。咬合に関連した歯科心身症患者は独特のこだわりを持っている点に共通性があり、実際の治療が難航するケースも多い。
発症の契機と具体的な症状、その後の治療反応性、補綴的評価の推移から分類を行い、疾患概念を構築していく。補綴領域のみならず、心身医学や精神医学の最新の文献の渉猟、他科学会への参加を積極的に行い、従来の補綴学の概念にとらわれない仮説を模索する。
すべて 2011
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Clin Neuropharmacol
巻: 34(4) ページ: 166-169
日歯心身
巻: 26(1) ページ: 61-65
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