研究概要 |
舌は口蓋部と接触して口腔内圧を生じさせて,食塊を口腔から咽頭を経て食道へ送り込む重要な働きを果たしている.しかし,口腔から咽頭への食塊移送と舌機能発現との詳細な関係については未だに解明されていない.そこで,嚥下造影検査と舌圧との同時記録を行い,嚥下造影における嚥下関連器官の動きや食塊の動きと,舌圧波形との関係を時系列上で評価した.被験者は健常有歯顎者11名とし,舌圧はニッタ社製面圧分布測定システムスワロースキャンを用いて計測し,同時に嚥下造影透視装置を用いて嚥下関連器官と食塊の動きを観察した.計測タスクは座位にて唾液嚥下および4mlバリウム嚥下とした.その結果,舌圧波形は単峰性か2峰性を示した.側方後部のChs4,5は2峰性を示すことが多く,後方正中のCh3は単峰性のことが多かった.口蓋前方部のCh1の舌圧発現時は,嚥下造影における舌尖と口蓋との接触時とおおよそ一致していた.単峰性波形の舌圧最大時および2峰性波形における2つ目の波形の舌圧最大時はほぼ同じであり,舌骨挙上開始および食塊先端が軟口蓋に達する時間と近似していた.さらに,Chs4,5の舌圧消失時は嚥下造影における舌骨が最前方に達した時と強く相関していた.一方で,液体嚥下時における咽頭部での食塊の位置は,舌圧のイベントとの関連が認められなかった.以上より,健常者における硬口蓋部の舌圧発現は,嚥下時の舌の動きだけでなく,口腔相における食塊の咽頭への送り込みに関係していると共に,舌骨の前方への動きと同期していることが示唆された.
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