研究概要 |
定量的感覚検査(Quantitative Sensory Test; QST)は,末梢や中枢における神経障害性疼痛や,神経疾患の検査として有用であるとされているが,体表面を測定部位とするものに比べ口腔内における定量的感覚検査に関する報告は少なく,検査方法も確立されていない, そこで,口腔内における感覚の異常を客観的に評価するのに必要な知見を得るため,口蓋,舌,および歯肉を対象として温冷刺激の知覚閾値を用いた定量的感覚検査を行い,口腔内における温冷知覚閾値の特徴を調査するとともに,各部位における検査値の再現性についても検討を行った, 被験者は,健常成人20名(男性10名,平均年齢26.1歳,および女性10名,平均年齢24.4歳)であり,知覚閾値の測定には,PATHWAY(Medoc社)およびIntra Oral Thermode(Medoc社)を用いた.測定部位は,口蓋,舌,および歯肉とした。口蓋では,鼻口蓋神経支配領域の切歯孔相当部粘膜,および両側大口蓋神経支配領域の大口蓋孔相当部粘膜の3か所を測定部位とした.舌では,舌背前方で左右対称に2か所を測定部位とした.歯肉では,両側の犬歯唇側歯肉相当部に対し,左右対称に上顎2か所,下顎2か所を測定部位とした,それぞれの測定部位における温冷覚閾値を,日を変えて3回測定し,口腔内(口蓋・舌・歯肉)と口腔外(顔面部皮膚)の温冷知覚閾値の違い,口腔内(口蓋・舌・歯肉)の部位間の温冷知覚閾値の違い,日間変動,左右側差,および性差を検討した.温冷知覚閾値は日間変動,・左右側差を認めなかった.顔面皮膚と各測定部位との温冷覚閾値の差は大きく,男女差も認めた, 口腔粘膜を測定部位とした温冷知覚閾値は十分な再現性を有しており,口蓋,舌,および歯肉を対象としたQSTは臨床応用が可能であることが示唆された.一方,口腔内においてQSTによる測定値を評価するためには,測定部位ごとの知覚閾値に関する正常者の基準データを確立する必要があることが示された.
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