本年度は義歯に使用する材料(アクリリックレジン)の表面性状に着目し、その表面粗さとカンジダアルビカンス(真菌)の抗真菌剤抵抗性の関連性の検討を行った。表面粗さは義歯研磨面(義歯表面の光沢のある部分)と同等のもの、義歯調整に使用する切削器具を用いて切削したものと同等のもの(粗い部分)およびその中間のものを用いた。その結果、表面性状が滑らかになるほど抗真菌剤抵抗性が減少する、すなわち滑沢な表面に付着したカンジダアルビカンスには抗真菌剤が効きやすくなるという興味深い知見を得た。したがってカンジダアルビカンスが材料表面に付着する際に起こる変化が、抗真菌剤耐性と関わりがある可能性が示唆された。さらに抗真菌剤(カスポファンギン)同様に抗真菌作用を有する新たな小分子化合物を探索するため、1280個からなる小分子化合物ライブラリーを用い、カンジダアルビカンスに対する抗真菌性のスクリーニング検査を行った。その結果、明らかな抗真菌性を有する数個の新たな小分子化合物を発見することができた。この小分子については、今後ヒトの細胞に与える影響を検討するなど更なる分析を行う必要があるが、この発見は新たな抗真菌剤の開発につながる可能性を示唆するものである。最後に、当初の研究計画であったPIL1遺伝子に関する検討は、今年度は行えなかったが、研究計画の最終目的である抗真菌性を有する義歯床用材料の開発に向けて重要な結果を得ることができた。
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