本年度は昨年度に引き続き、義歯に使用する材料(アクリリックレジン)の表面性状がカンジダアルビカンス(真菌)のバイオフィルムに及ぼす影響について検討を行った。表面粗さは義歯研磨面(義歯表面の光沢のある部分)と同等のもの、義歯調整に使用する切削器具を用いて切削したものと同等のもの(粗い部分)およびその中間のものを用い、抗真菌剤抵抗性に関与すると考えられている遺伝子の発現の変化を比較した。その結果、バイオフィルムが形成されるレジン表面の性状が変化することにより、発現が変化する遺伝子を見出すことができた。また前年度の結果よりレジン表面の性状が滑らかになるほど抗真菌剤抵抗性が減少する、すなわち滑沢な表面に付着したカンジダアルビカンスには抗真菌剤が効きやすくなることが明らかとなっている。したがってこの知見はバイオフィルムの抗真菌剤抵抗性の機序解明につながる可能性が示唆された。さらに前年度に発見した小分子化合物を用い、カンジダアルビカンスのバイオフィルムに対する効果の検討およびヒト歯肉線維芽細胞の細胞増殖に与える影響の検討を行った。その結果、5個の小分子化合物がバイオフィルに対して効果を有することが明らかとなった。さらにそのうち1個の小分子化合物はヒト歯肉線維芽細胞に対しても、その細胞増殖に影響を与えることが少なく低毒性であった。このことは新たな抗真菌剤の開発につながる可能性を示唆するものである。最後に、本研究を通じ研究計画の最終目的である抗真菌性を有する義歯床用材料の開発に向けて重要な結果を得ることができた。
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