平成22年度はラット歯髄細胞からの神経幹細胞の分離を、平成23年度には分離された神経幹細胞を脳梗塞モデルラットに移植し、運動機能が改善することを確認した。これらの結果を受けて、平成24年は移植した細胞の行方について検証した。 4週齢のWister系雄性ラットの歯髄から採取した細胞をニューロスフェア法により培養した。これらの細胞を細胞追跡試薬である Vybrant® CFDA SE Cell Tracer Kitで処理を行った。次に以下の方法にて、10 週齢のWister 系雄性ラットを用い、脳梗塞モデルラットの製作を行った。①外頚動脈と内頚動脈分岐を露出した。②術中の出血をさけるため、適宜、総頚動脈および外頚動脈の結紮を行い、外頚動脈の切断後、外頚動脈側から栓塞子を中大脳動脈起岐部へ挿入した。③90分後、栓塞子の除去(再灌流)した。手術が終了し、再灌流から1時間経過後に、追跡試薬処理を行った神経幹細胞を大腿静脈から移植した。細胞移植から2週間後に安楽死させた脳梗塞モデルラットの脳組織を取り出し、パラフォルムアルデヒドで固定し、ビブラトームで梗塞巣を含む厚さ10μmの組織切片を作成し、共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。移植された細胞は、梗塞巣の周囲に集積しており、脳梗塞により脳血液関門が障害されると報告されている時期に移植された神経幹細胞が、脳血液関門を通り抜け、梗塞巣に遊走してきたことが示唆された。脳梗塞後に生理食塩水を大腿静脈より注射したラット群と細胞を移植したラット群の梗塞堆積を計測、比較したところ有意な差は認められなかった。 以上の結果から、歯髄より得られた神経幹細胞は、梗塞巣そのものの再生よりも、梗塞巣周囲の環境の改善により残された健全組織の代償機能を亢進させている可能性が示唆された。
|