従来、細胞培養においては培養機器としてのCO_2インキュベーターが37℃、5%CO_2という環境を有しているため、研究者は、何ら疑問を抱くことなく、この培養環境にすべての細胞を適応させてきた。しかしながら近年、1)細胞の局所環境に対応したエネルギー代謝には細胞外酸素濃度が関与する、2)幹細胞の分化誘導に際しては、サイトカイン等の液性因子(化学環境)が重要である、3)iPS細胞のような遺伝子導入による細胞特性の維持など、特定細胞には特定の培養条件の最適化が重要であり、その中でも低酸素が高効率化や幹細胞維持に必須であることが報告されてきている。本研究では、生体内に近似したin vitro環境を提供するため、高精度な細胞外環境至適化システムにおける培養器具を開発、歯髄幹細胞のニッシェ環境再現を試みた。 初年度(平成22年度)は、物理環境構築ためガス組成(酸素濃度を含む)、温度、気圧等の物理環境を任意に設定可能なオーダーメイド細胞培養システムの開発行った。そのため、本年度(平成23年度)は、この機器を用いて、口腔幹細胞の局所環境を再現することを目標とした。その結果、任意の酸素濃度に到達する時間が、従来型培養器では2時間かかる所、本研究で開発培養装置では5分で達成された。また、同一酸素条件下で培養した細胞形態も、従来型と本研究で開発された培養器では、アポトーシス誘導レベルが異なることが明らかとなった。さらに、細胞膜障害の指標とLDH活性測定によって、酸素濃度に依存してLDH活性が変動していることが明らかとなった。本研究で開発した機器を用いることで、かなり限定された範囲にある細胞毎の至適酸素濃度を瞬時にかつ高精度に再現された。また、これら均一な細胞を安全かつ長期的に保存できる方法として、急速凍結の適用を試みはじめた。
|