研究概要 |
チタンインプラント生体適合性は,加工直後の新鮮面がピークであり,表面に吸着する疎水性炭化水素の影響により経時的に悪化することが,「チタンの生物学的老化」という造語を用いて米国の一研究機関から強調されており,研究者や臨床家の間に不安と動揺が広がっている.このため,加工直後の理想的な生体適合性を持続的に維持できるチタンインプラントの表面改質が求められている.チタンの放電陽極酸化処理の基礎実験を行った実績がある.電解液中でのチタンの陽極酸化処理は,酸化膜/電解液およびチタン/酸化膜界面において同時にTi4+とO2-が発生し,酸化膜を成長させる.厚みの増加したアモルファスのアナターゼ型酸化膜内にはTi4+とO2-の正孔電子対が残存しており,ヒドロキシラジカルの発生と親水性が維持される.これらはX線回折分析およびX線光電子分光分析により確認された.一方,大気加熱によりチタン表面に析出した結晶性ルチル型酸化膜では濡れ性が一時的に改善されたものの,これらの化学反応は見られなかった.ヒドロキシラジカルにより,表面に吸着する炭化水素が分解され,チタン表面の疎水化を防止し,生体適合性を長期間維持することができた.また,陽極酸化チタン表面のアナターゼ型酸化チタン膜は,ルチル型のチタンにくらべて,細胞接着性や石灰化マーカーのmRNAが著しく向上した.また,in vitroでの石灰化能力にも優れている.これは,陽極酸化膜表面の親水性による細胞接着性向上だけでなく,ヒドロキシラジカルによる細胞外マトリクスタンパクの架橋反応上昇によると考えられる.本研究から,放電陽極酸化による表面処理は,チタンの経時的劣化を防止し,歯科用チタンインプラントの表面処理として有効であることが示唆された.
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