術中の下顎神経(舌神経、下歯槽神経)の損傷により、神経支配領域である舌や下唇に感覚異常が生じることがある。臨床では主に患者の主観に頼った知覚検査法(二点識別検査法など)を用いて評価しており、神経損傷の重症度を定量的に評価する方法が存在しない。本研究では、三叉神経刺激による体性感覚誘発脳磁場反応を指標に、舌、下唇に感覚異常を生じた患者の下顎神経損傷の定量的評価法を確立することを目指す。今年度は、北海道大学病院の自主臨床研究審査委員会に承認を受けた後、まず、健常被験者を対象に三叉神経刺激による体性感覚誘発脳磁場反応の計測を行った。最も制御しやすく、かつ広く用いられている感覚刺激は電気刺激であるが、口腔内に電気刺激を用いた場合、刺激部位と記録部位(脳)が近いために、脳磁場計測における磁場の乱れが不可避であり、三叉神経の電気刺激による体性感覚誘発脳磁場反応を観察する事は困難であった。そこで、我々は電極の先端を細くしたピン電極を用いた電気刺激を行った。従来の電気刺激で用いられたクリップ電極と比較して低刺激強度で刺激可能なため、刺激直後のアーチファクトは軽減されたが、表皮との接触面積が小さいため反応が小さくなるという欠点も認められている。今後はさらなる信号・雑音比の向上を目指すため、より適切な刺激方法、計測方法の検討を行う予定である。また、舌や口唇以外の口腔領域への応用が可能かも検討する予定である。さらに、舌神経損傷の患者ならびに下歯槽神経損傷の患者を対象に脳磁図計測を行い、体性感覚誘発脳磁場反応と感覚異常の程度や神経損傷の程度との相関を解析することで、感覚異常や神経損傷の定量的評価への臨床応用を目指す。
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