現在臨床の場では、術後の急性疼痛や癌性疼痛に対する疼痛管理として、局所麻酔薬を局所注入する方法や麻薬を静脈内に持続投与する方法が主体であるが、それぞれ作用持続時間が短い、意識レベルの低下や呼吸抑制等の副作用が大きいという欠点がある。 そこで、物理学的手法の一つである超音波とナノ・マイクロバブルを利用した分子デリバリー法を用い、疼痛部位や支配神経周囲へ疼痛抑制関連遺伝子を導入することによって、安全かつ副作用が少なく、良好な覚醒状態を維持した鎮痛療法を確立するための研究を行った。 ラットに脊髄カテーテルを挿入し、後足切開法にて術後疼痛モデルを作成した。同ラットの脊髄へ遺伝子導入(神経栄養因子等)を試みたが、機械刺激・熱刺激に対する鎮痛効果は確認できす、ラット術後疼痛モデルに対する脊髄への遺伝子導入では有効性が認められなかった。 そこで、ラットの足底筋に遺伝子導入(脊髄に導入したものと同様の遺伝子)を行った後、後足切開法により術後疼痛モデルを作成したところ、機械刺激・熱刺激に対する疼痛閾値の上昇を切開の10日後まで確認することができ、自発痛の抑制も切開の3日後まで認められた。また、免疫組織化学染色において導入遺伝子により産生されたタンパク発現の確認を試みたが、行った条件下では確認することはできなかった。 さらなる研究が必要であるが、ラット術後疼痛モデルにおける足底筋への遺伝子デリバリーによる疼痛制御の有効性が示唆された。
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