研究概要 |
21世紀の歯科医学における戦略的研究課題の一つは歯の再生と考えている.近年,マウス歯胚細胞を用いた歯の再生医療の研究が活発に行われるようになり,失われた歯を取り戻すことが現実となりつつあり,今後,ヒト細胞を用いた歯の再生医療への応用が期待される.再生医療の細胞源として注目を浴びている問葉系幹細胞は様々な間葉系細胞への分化能を有する細胞であるが,間葉系幹細胞の歯原性細胞への分化能を示した報告は非常に少ない.本研究では,ヒト細胞を用いた歯の再生医療の開発を目指し,当教室で樹立したヒト骨髄由来間葉系幹細胞とマウス由来エナメル芽細胞株との上皮-間葉相互作用を応用した生物学的手法により,ヒト間葉系幹細胞から象牙芽細胞への分化誘導を試み,成熟した象牙質や部分的な歯を再生することを目的とした.前年度は,in vitroにおける上皮-間葉相互作用を重層共培養法で再現し,間葉系細胞を播種した後,エナメル芽細胞を間葉系細胞の上に播種するときれいな上皮コロニーが形成された.同時に,間質系細胞に形態形成に関与するShhやWnt遺伝子を導入し,同様の実験を行い,歯の形態形成に及ぼす影響を解析していた.本年度も解析を継続し,ShhやWnt遺伝子を導入した間葉系細胞をフィーダー細胞に使用すると,エナメル芽細胞のコロニー数が優位に増加し,コロニーの最大直径は有意に増大した.また,間葉系細胞をマイトマイシンCで処理した後にエナメル芽細胞を重層すると培養2週後にエナメル芽細胞の細胞塊が形成された.ShhやWnt遺伝子発現群では有意にその細胞塊が増大し,細胞分化を調節するNotch1遺伝子の発現が抑制された.Wntは,エナメル芽細胞のRunx2/Cbfa1の発現を完全に抑制した.さらに本年度は,コラーゲンを移植用担体に間葉系細胞とエナメル芽細胞の複合体を作製し,ヌードマウス背中皮下に複合体を移植したが.癌化する傾向にあり,歯の再生には至っていない.
|