本年度は、口腔扁平上皮癌の浸潤と転移を臨床に近い状態で再現できる正所性移植モデルを用いて線維芽細胞増殖抑制剤(トラニラスト)と抗癌剤であるシスプラチンの両剤を使用し、増殖、浸潤、転移に対する抑制効果があるか否かを検討することに加え、腫瘍間質の反応の検討についても取り組んだ。マウスの舌に移植した細胞は口腔扁平上皮癌で最も悪性度の高い浸潤様式4D型と診断された舌癌患者の頸部リンパ節より樹立されているOLC-01細胞を使用し、翌日よりトラニラスト群、シスプラチン群、併用群、コントロール群に分け腹腔内投与をした。 その結果、移植腫瘍の大きさの平均はコントロール群と併用群の間に有意差があった。リンパ節転移率は全体で8.33%と低く検討不能であった。結合組織量を観察するためアザン染色を行ったが、トラニラスト群では結合組織量が顕著に抑制されていたが、筋線維芽細胞のマーカーであるα-SMA抗体、高浸潤癌の線維芽細胞に発現するMT-MMP1抗体による発現は減弱されていなかった。しかしながら、併用群ではα-SMA抗体の発現の減弱が顕著だった。 従って、線維芽細胞増殖抑制剤であるトラニラストは結合組織量を減少させることはできるが、腫瘍間質の性質、すなわち癌細胞浸潤を誘導する癌間質線維芽細胞の性質は変化させることはできないことが判明した。しかし、抗癌剤であるシスプラチンはその性質を減弱させることが可能であるのではないかと考えられた。これらの結果は、両剤を併用することによって腫瘍の増殖、浸潤に抑制効果がおおいに期待できることを明らかにした。トラニラストは確実に結合組織量を減少することのできる薬剤であり、副作用はほとんどないため、抗癌剤との併用は臨床で用いる薬剤として意義のあるものと考えられる。
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