今年度は、複数の口腔扁平上皮癌培養細胞を用いてSTAT蛋白質のリン酸化について解析を行った。STATファミリーは7種類からなることが知られている。細胞間接着に続いて細胞内で生じるSTATファミリーそれぞれのリン酸化発現量をウェスタンブロッティングで解析したところ、STAT1とSTAT3において著名な上昇が見られ、発現量は細胞によってばらつきがあることが明らかとなった。また、転移能が低いといわれている培養細胞では細胞間接着の前後でリン酸化蛋白質はほとんど変化が見られないことに対して、転移能が高いと報告されている培養細胞では細胞間接着に続いてリン酸化蛋白質が高発現していた。これらのことからSTAT蛋白質のリン酸化によって誘導されるシグナリングが口腔癌の転移に重要な役割をもつ可能性が示された。STAT5は乳癌で高発現しているとの報告があるが、いずれの口腔癌培養細胞においても細胞間接着によってリン酸化は誘導されていなかった。 STAT1およびSTAT3のリン酸化は、細胞によって誘導されるまでの時間が異なり、その発現は細胞間接着に引き続いて一過性である。現在、STATシグナル関連蛋白の網羅的解析を行うためのキナーゼペプチドマイクロアレイを予定しており、これに用いるサンプリングについて予備実験を行っている。STATシグナルに関連する蛋白も経時的に変化していると予想されるため、既知の蛋白質についてはウェスタンブロッティングなどで解析を行った上で、アレイ解析を進める予定である。
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