【目的】ミクリッツ病(MD)は涙腺や唾液腺の腫脹を特徴とし、病理組織学的類似性があることから、シェーグレン症候群(SS)の一亜型として認識されてきた。しかし近年、MDに高IgG4血症や腺組織へのIgG4陽性形質細胞の浸潤が認められることから、両者が全く異なった機序で生じる疾患であることが示唆されている。IgG4は通常Th2サイトカインであるIL-4によって分化・誘導されることが知られているが、MDと同じIgG4関連疾患の1つである自己免疫性膵炎では、Th2だけではなく制御性T細胞(Treg)も病態形成に関与することが報告されている。そこで本研究では、MDとSSの口唇腺を用いて、病変局所におけるTh1、Th2、Th17、およびTregに関連するサイトカイン、ケモカイン、ケモカインレセプターの発現について検討した。【材料および方法】1993年4月から2010年12月までに当科を受診したMD15例、SS18例および健常者18例を対象とした。これらの患者の口唇腺を用いて、免疫組織化学染色およびreal-time PCRによりサイトカイン、ケモカイン、ケモカインレセプターの発現を解析した。【結果】SSではTh1およびTh2タイプの分子の発現が亢進しており、口唇腺へのIgG4およびTregの浸潤はほとんどみられなかった。一方、MDではTh2およびTregタイプの分子の発現が亢進しており、リンパ濾胞とその周囲にIgG4およびTregの強い浸潤がみられた。また、IgG4へのクラススイッチとの関連が報告されているIL-4、IL-10についてIgG4との相関をみたところ、MDのみにいずれも正の相関が認められ、特にIL-10とは強い相関を認めた。【結論】Th2とTregから産生されるサイトカインは、MDのIgG4産生に重要な役割を果たしており、これらのタイプのサイトカイン、ケモカイン、ケモカインレセプターがMDの特徴的な病態形成に関与していることが示唆された。
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