頭頚部癌に対する放射線・化学療法で発症する口内炎は、粘膜上皮細胞のDNAが直接放射線や化学療法剤で損傷を受ける他に、後天的な遺伝子発現の傷害、いわゆるエピジェネシスによるものと考えられる。エピジェネシスの治療法としてヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤の使用が研究されているが、本研究では、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤のトリコスタチンAがどの程度粘膜上皮細胞の損傷を抑制するかについて、無血清培地で培養した単層培養口腔粘膜上皮細胞上で検討した。7名の口腔外科外来小手術の被験者から口腔粘膜を採取し、初代培養を行った後、2継代まで可能な細胞2株を用いて実験を行った。化学療法剤のCDDPを投与し粘膜上皮細胞の増殖抑制試験を行った。結果はCDDP100μM投与群で細胞増殖抑制効果が得られた。次にトリコスタチンAの細胞増殖抑制試験を実施した。一回目ではトリコスタチンA100nMを投与した時、10%増殖率の増加が得られたが、2回目以降では細胞の増殖率に0%~10%の幅で差が生じ、安定した濃度が得られなかった。またトリコスタチンA100nMの濃度に固定して1Gy2GyのX線照射を行い、コロニー形成能を調べたが、コロニーは全く認められなかった。一方トリコスタチンA100nMを作用させた後にCDDP100μMを投与し、同様のコロニー形成能実験を行った。結果は放射線と同様にコロニー形成能を認めなかった。放射線照射・CDDP投与両群での培養上清を用いてTNF-αの分泌濃度をEHSAにて測定した。トリコスタチンAのみ作用させた群をコントロールとして比較したが、有意な差は認められなかった。
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