軟骨の主要なプロテオグリカンであるアグリカンは、多量の水分との結合能による緩衝材としての関節保護作用などを介して関節の恒常性維持に働く。しかし、変形性関節症(OA)では、アグリカンの分解亢進により、この物理的保護作用が失われ、関節機能低下につながる。近年の研究でOA初期のアグリカン分解に関与する因子としてADAMTS4とADAMTS5が同定されたが、この代謝や分解機構に関する詳細は不明な点が多い。これまでの研究で、われわれは、顎関節患者より採取した関節滑液中のヒアルロン酸の分子量が低下すること、そして低分子量ヒアルロン酸が破骨細胞の分化・骨吸収活性の増強を介して関節破壊に作用することを明らかにした。今回、低分子量ヒアルロン酸がADAMTS4、ADAMTS5の発現や活性化に及ぼす影響についてin vitroの系を中心に研究を行った。 培養初代軟骨細胞において、低分子量ヒアルロン酸の添加により、ADAMTS4、ADAMTS5の発現は遺伝子レベル、タンパクレベル両者において亢進が観察された。この増強作用は時間および濃度依存的であった。また、器官培養系の研究では、軟骨に対する低分子量ヒアルロン酸の添加により、培養上清中に検出されるアグリカンの切断に伴うepitopeであるNITEGEが増加した。また、シグナル分子の選択的阻害剤を使用した研究結果より、この低分子量ヒアルロン酸によるADAMTS4、ADAMTS5の発現・アグリカン分解活性の亢進には、NF-κBを介するシグナル経路の関与が証明された。さらに低分子量ヒアルロン酸によるADAMTS4の発現誘導には膜結合型マトリックスメタロプロテアーゼ(MT4-MMP)との複合体形成の亢進が関与していることが共免疫沈降法を用いた検証により、明らかとなった。 以上の結果から、関節内におけるヒアルロン酸分子量の低下は、ADAMTS4、ADAMTS5の産生を介するアグリカンの分解亢進により、OA初期の病態形成に関与する可能性が示唆された。
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