本研究では癌性疼痛の分子機構解明を脊髄の神経-グリア相互作用の時系列的・局所的変化の解明によって、神経栄養因子誘導による治療が予防的および慢性期に応用できるか否かの、基礎的知見を得ることを目的とする。まずWister系ラットを用いて、癌性疼痛モデルの作製を行った。チオペンタール腹腔内投与による麻酔下に、右側上顎骨部分に1ml注射器にて癌細胞(Walker256B carcinocarcinoma;2x10^6)を注入し、癌性疼痛モデルとした。この顔面癌モデルにおいて、癌細胞接種後に自発痛が出現することを観察した。異常疼痛は時間経過とともに増悪し、アロディニアや痛覚過敏を示す領域は拡大された。この顔面癌モデルにおける異常疼痛の発生時期は、これまでに報告されるどのガン性疼痛モデルと比較しても圧倒的に発症が早かった。この結果は、口腔顔面部の癌患者における早期のガン性疼痛発症を反映していると考えられた。ちなみに予備実験として、Walker256B細胞が1日に1回程度で倍数分裂していることを確認した。ガン性疼痛モデルを用いた研究より、腫瘍増大や骨浸潤に伴った2次的炎症および圧迫や浸潤による神経障害がガン性疼痛の原因となっていることが示唆されたため、モルヒネ、NSAID(非ステロイド性消炎剤)、をくも膜下腔に投与して鎮痛効果を調べると共に、細胞修復を詳しく調べるため、1、3、7、14日目に脊髄を摘出、凍結切片を作成、これらの組織切片に対してc-fos遺伝子発現をin situ hybridization法にて検討している。
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