末梢性や中枢性のグリア細胞の活性は、炎症や神経障害により発生する痛覚過敏において重要な役割を果たす。しかし癌性疼痛におけるグリア細胞の役割はよく解っていなかった。よって本研究では、末梢性ならびに中枢性のグリア細胞の評価と、そのグリア細胞の活性を抑制するプロペントフィリンが、Walker256B細胞を片側の鼻毛部に注入した口腔癌モデルラット(3~4日後)の痛覚関連行動にどのような作用を及ぼすのかを評価した。結果、我々のモデルはsham群と比較し、顔面グルーミング時間は延長し、癌細胞注入部における輻射熱刺激に対する逃避潜時は短縮、von Frey hair刺激に対する逃避閾値は減少した。これらは自発痛ならびに温度痛覚過敏症ならび機械的異痛症が出現した事を示唆している。Ibal(ミクログリアの抗体)とGFAP(アストロサイトの抗体)に対する免疫染色に関しては、三叉神経節においては変化はなかったが、三叉神経脊髄路核尾側亜核においては強い陽性像を示した。しかし連日のプロペントフィリン腹腔内投与により、腫瘍サイズは変化しないものの、2日目より中枢性グリア細胞の活性は減弱し、痛覚関連行動は抑制された。結果、我々のモデルの初期段階においては、末梢性ではなく中枢性のグリア細胞の活性化が、自発痛の拡大や異痛症そして過敏症の発生に関与していることが判明した。 次に我々は血管内皮細胞由来のペプチドで強力な血管収縮作用を示すエンドセリンが、近年神経因性疼痛発生に大きく関与していると報告されていることに着目した。複数の研究において、エンドセリンが中枢性グリア細胞を活性化することで神経因性疼痛を発生させているとの報告がある。よって我々は当モデルを用いて、エンドセリンの末梢投与による自発痛出現の有無、ならびに中枢におけるグリア細胞の変化を調査しているところである。この機序が解明できれば我々が当初の目的としていた中枢性疼痛抑制を解析することが期待される。
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