最近の報告では、中枢グリア細胞の過剰活性化が癌による持続性疼痛に関わると言われているが、この過剰活性の時間的変化とグリア細胞の痛覚過敏への寄与は未だに解明されていない。よって、今回の研究では顔面癌モデルで、三叉神経脊髄路核尾側亜核(MDH)や頚椎後角(UCDH)などを含む三叉神経入力領域におけるミクログリアとアストロサイトの過剰活性の時間的変化と痛覚関連行動を調査した。本モデルでは、MDHへ感覚神経が投射される鼻毛部付近で腫瘍が増大したが、UCDHへ感覚神経が投射される眼窩下領域へは広がっていなかった。それにもかかわらず、機械的異痛症や温度痛覚過敏症は鼻毛部だけでなく眼窩下領域においても観察された。ウェスタンブロッティング法や免疫染色法では、癌接種4日目では三叉神経入力領域においてミクログリアの広範囲の活性化が認められ、11日目にかけて次第に不活化していった。対照的に、アストロサイトは4日目においてMDHのみ活性化が認められ、過剰活性は遅れてUCDHへ広がっていった。4日目から開始したグリア細胞活性の抑制剤であるプロペントフィリンの毎日の投与は、その後のグリアの過剰活性を抑制した。プロペントフィリン投与は5日目に始まる眼窩下領域の異痛症や過敏症をほとんど予防するが、鼻毛部においてはあまり効果がなかった。これらの結果から、本モデルでは、一過性のミクログリアの過剰活性や持続的なアストロサイトの過剰活性など中枢のグリア細胞の過剰活性は、痛みの維持ではなく、痛覚過敏の発生に寄与すると考えられる。
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