本研究では、テロメラーゼ作動性の癌特異的ウィルス製剤(テロメライシン&テロメスキャン)に放射線療法を併用した基礎研究に基づいて、ウィルスによる癌細胞融解だけでなく、生存した癌細胞に対しても口腔癌の増殖、浸潤転移を制御させる臨床応用を目指した新たな治療戦略の早期開発を目指す。平成22年度は、ヒト口腔扁平上皮癌細胞において有意にテロメラーゼ活性を有していることを見いだし、細胞表面のアデノウイルス受容体の発現を認めた。さらに各種ヒト口腔扁平上皮癌細胞にテロメライシンを感染させた後、放射線を照射し、経時的な生細胞数の変化をXTTアッセイにて検討した。その結果、数種類のヒト口腔扁平上皮癌細胞においてウイルス単独投与と比較して、放射線照射を併用することによって、有意な殺細胞効果を認めた。平成23年度は放射線照射後にテロメライシンを感染させることによっても、単独投与と比較して有意に殺細胞効果を認めた。そこで、これら放射線との併用効果のメカニズムの解析を行った。その結果、テロメライシンを感染させることにより、放射線によるDNA修復機構の一部であるMRN complexにテロメライシンのE1B55kのタンパク発現が結合することにより、その後のDNA修復遺伝子の発現を抑えることが併用効果に寄与している可能性が示唆され、また、放射線を先に照射する場合においては、放射線照射により、口腔癌細胞表面のアデノウイルス受容体の発現を亢進させることにより、テロメライシンの感染効率を上げるため、相乗効果をもたらした可能性が示唆された。今後は放射線の照射量の最小値の検索など最適な併用の時期について検討していく必要があると考える。
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