癌の浸潤・転移には、癌細胞の表現型とともに血管新生を含む癌微小環境の果たす役割が注目されている。本研究では、ヒト舌扁平上皮癌原発病巣の浸潤様式の分類と予後予測につながる病理診断指標を明らかにすることを到達目標として、癌微小環境を構成する血管・リンパ管内皮細胞、線維芽細胞、マクロファージなどを多重免疫標識により分画し、連続薄切画像の3次元形態計測を行った。本年度においては、これまでに確立してきた3次元構造解析法に高分解能バーチャルスライド画像を併用した改良を加え、腫瘍病変の全細胞集団(約5×10^5個/mm^3)を対象として、核質(Ki-67陽性増殖細胞核など)、細胞質(サイトケラチン、ビメンチン細胞骨格分子など)、細胞膜(Eカドヘリンなど)での分子局在の計測が可能なまでに解析精度を高めることができた。異なる空間分解能(×10、×20、×40)のバーチャル画像を併用した組織立体構築では、癌微小環境に広がる血管走行の俯瞰から末梢血管先端の詳細観察までが可能となった。舌扁平上皮癌の浸潤先端部で異なる免疫表現型(CD31、CD34、CD105)を示す血管内皮細胞と血管内皮に接するα-SMA陽性の周皮細胞を分画した上で、癌胞巣内部に入り込む狭い血管間質(intratumor領域)と胞巣周囲の血管間質(実質間質の境界面からの空間距離で区画したperitumor領域)での血管網の組織内分布も3次元空間で再現・定量解析できた。HIF-1α陽性の癌胞巣内部では、CD105陰性/CD34陽性の内皮細胞とαSMA陽性の周皮細胞で覆われた血管走行に連続して、CD105陽性/CD34陰性の内皮細胞が微小血管の先端部に局在していた。互いに独立した癌胞巣のサイズ分布、癌間質での血管・リンパ管の密度、脈管腔-癌胞巣の空間距離における近接度、癌胞巣周囲に集積する間質細胞の同定と細胞密度を定量計測できた。
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