転移抑制因子CD82/KAI-1がc-Metと複合体を形成し、c-Metアダブター蛋白質の結合を阻害することにより癌細胞の遊走を抑制することが明らかにされていることから、CD82の発現に伴って細胞遊走に関与するシグナルが制御され、細胞運動関連酵素の発現も変動することが推察される。そこで本研究では、CD82低発現細胞株h1299にCD82を遺伝子導入したh1229/CD82 transfecatantを用いてCD82の発現に伴うジペブチジルベブチダーゼIV gene familyとCaveolin-1の変動を検討した。樹立したCD82導入株ではDPP9のmRNAと蛋白の減少が見られたが、DPP4とDPP8ではわずかに減少がみられた。CD82をノックダウンしたCD82導入株におけるDPP4 gene familyの変動を検討したところ、CD82siRNA導入後48、72時間でDPP4とDPP8の発現は増加を認めたが、DPP9では減少し96時間で上昇した。CD82と複合体を形成するCaveolin-1をWestern blotで検討したところ、CD82導入株の細胞骨格分画に強発現を認めた。次に3種類の認識部位の異なった抗体でDPP9の局在をWestern blotで検討したところ、CD82導入株において細胞骨格分画にN未端領域と触媒領域で著しい発現を認めた。一方、DPP4、DPP8の発現はすべての分画で有意な差は認められなかった。蛍光抗体染色ではMOCKのCaveolin-1とDPP9は主に細胞膜と細胞質に局在していたが、CD82導入株では特に細胞質に強発現していた.Western Blotの結果から、CD82発現によりCaveolin-1とDPP9が細胞骨格分画に強発現すると考えられる。本研究と現在までの報告をまとめると、CD82はDPP4発現を介してDPP9の発現を抑制し、E-cadherin、β-cateninnなどの発現を促進し細胞間接着を亢進させること、さらに、caveolin1とDPP9タンパクを細胞骨格分画に誘導することにより癌細胞遊走を抑制することにより癌の浸潤・転移を制御していることが示唆された。今後、CD82と各酵素蛋白質の発現誘導経路、Caveolin-1とDPP9の細胞骨格蛋白への関連とその役割について明らかにする予定である。
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