矯正治療や歯の再植・移植といった治療や炎症により、歯根吸収が惹起され、動揺や脱落といった転帰をたどるケースは少なくない。歯根形成のメカニズムを解明することは一端吸収が進んだ歯根の再生や歯根吸収の抑制といった治療法の開発に向けて期待されるテーマである。眼・顔面・心臓・歯(OFCD)症候群はまれな遺伝性疾患で、特異的な頭蓋顔面を呈し、心臓および眼の異常がみられ、長い歯根を呈する疾患である。近年、BCL-6 co-repressor(BCOR)の変異により、OFCD症候群を引き起こすことが報告されたが、歯根形成におけるBCORの機能は明らかにされていない。そこで、分子生物学的、遺伝学的ならびにバイオインフォマティクスの手法を統合して、OFCD症候群を引き起こすBCORの機能を解析し、トランスレーショナルリサーチを目指した歯根形成のメカニズムを解明することを目的とした。 OFCD症候群を引き起こすBCOR遺伝子の突然変異にはさまざまなものがあり、フレームシフト、スプライシング変異、ときには部分的な大規模な欠失などが認められる。これらすべての変化が同じ病変を呈するということは、その原因がBCORの機能喪失にあることを示唆しているが、現在その病因論は明らかになっていない。 平成22年度では、研究代表者が担当しているOFCD症候群患者の矯正歯科治療のため便宜抜歯した小臼歯より、歯髄間葉細胞ならびに歯根膜細胞を単離し、現在も継続して培養を行っている。今後、それらの培養細胞よりゲノムDNAを抽出し、BCORの変異部位の同定を行い、さらにRNAやタンパク質を抽出、機能を解析することで、BCOR遺伝子の変異とOFCD症候群の発症メカニズムの関連性を明らかにする予定である。
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