本研究の目的は、象牙質シアロリン酸化タンパク(DSPP)を応用した骨欠損等に対する骨組織再生と修復反応を促進させる方法の、基礎的情報を得ることである。今年度は、各週齢のDSPP WT・KOマウスの骨について、マイクロCTを用いて骨密度を計測した。その結果、WTマウス大腿骨遠位端骨密度は、KOマウスに比べて、1年齢以降において高い傾向が見られたが統計学的な有意差はなかった。また、卵巣摘出術4週後のマウスを同様に計測をしたところ、WTと比較してKOマウスのほうが卵巣摘出後により骨密度が低下している傾向が見られた。また、マウス頭蓋冠より間葉系細胞を分離し骨細胞・脂肪細胞への分化促進培地内でDSPP由来RGD含有ペプチド存在下・非存在下にて培養を行った。DSPP由来配列含有ペプチドは、RGD配列を含む配列を中心に8種類を合成し、最終濃度が100nM、1μMとなるよう培地を調整した。その結果、DSPP由来のRGD含有ペプチドは、RGE含有コントロールペプチドよりも濃度依存的に骨細胞分化を抑制した。また、DSPP由来RGD含有ペプチドはRGE含有コントロールペプチドより脂肪分化を促進した。これは、昨年度に骨髄由来間葉系細胞で得られた結果や、先の骨密度計測の結果と相反している。そこで、細胞内シグナル伝達を確認するため、インテグリン下流のERK1/2のリン酸化をWestern blottingにて確認した。骨髄由来間葉系細胞、頭蓋冠由来の骨芽細胞共に、WTと比較してKO由来の細胞においてERK1/2のリン酸化は低下していた。DSPP由来RGD含有ペプチドを細胞に添加すると、添加初期にERKのリン酸化が急速に上昇するもののその後リン酸化は添加前よりむしろ低下したレベルが維持された。DSPP由来のペプチドはインテグリンに結合し、その後インテグリン経由シグナルをむしろ抑制する可能性が示された。
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