bHLH型転写因子であるTWIST1は上皮間葉転換(EMT)において重要な役割を果たすとともに、腫瘍の悪性化や間葉系細胞の分化抑制に関わることが知られる。本研究では、EMTにおけるTWIST1遺伝子発現制御機構を明らかにするとともに、EMTに関連する転写因子が受けるエピジェネティクス制御の解明を図ることを目的とした。TWIST1プロモーター上には転写開始点を含む1.2kbほどのCpGアイランドが存在するが、TWIST1発現量とTWIST1プロモーターのDNAメチル化状態の関係について昨年度より継続して解析を行った。TWIST1を高発現する細胞(ヒト骨肉腫由来細胞MG63など)およびTWIST1低発現の細胞(ヒト乳癌由来細胞MCF7など)からDNAを抽出しBisulfite処理の後、転写開始点から上流450bpまでの25のCpGサイトついてPyrosequencing法を用い、DNAメチル化率を定量的に解析した。結果として、部分的にはメチル化率に差が見られたが、全体としてはいずれの細胞においてもCpGサイトの高いメチル化率を示しており、これまでにTWIST1遺伝子発現とDNAメチル化状態の明らかな関連は見出せていない。 TWIST1は腫瘍の悪性化に関与することが明らかにされているが、T細胞の活性化時に発現し炎症反応を調節することも知られている。今回、レポーターアッセイを行った結果から、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の産物であるTax1によりTWIST1プロモーターが活性化されることが明らかとなった。さらにプロモーター変異体を用いて調べた結果、TWIST1プロモーターの転写開始点上流-102から-74の領域に反応する配列が存在することが示唆された。これらの領域は我々がこれまでに明らかにしてきた間葉系細胞におけるTWIST1発現に必要なプロモーター領域とほぼ一致している。この領域にはNF-κB結合様配列とCREB結合様配列が存在し、それらの配列に変異を導入すると、TWIST1プロモーターのTax1に対する反応性は低下した。
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