本研究の目的は、functional MRI(fMRI)を用いて顎運動時のヒト脳機能局在領域を明らかにした上で、毛細血管レベルにおける脳血流量の変化を、造影剤を用いず非侵襲的に灌流画像を得ることができる血液スピンラベリング(ASL)法を用いて定量評価することにより、顎運動時の局所脳循環の変化を解明することである。またその際、ASLでの解析結果を検証するために、より中枢側の主要動脈(中大脳動脈、前大脳動脈)における血流量の変化をphase contrast(PC)法を用いることによって併せて評価する。この手法によって、顎運動時の脳活動の大きさ(強さ)を経時的・定量的に評価することが可能となる。 fMRIおよびASLのデータを取得・解析する環境を整え、fMRIの解析ソフトであるStatistical Parametric Mapping (SPM)およびASLの基本的なデータ解析・画像処理法の知識・手技をさらに発展させ、実際のfMRI実験における顎運動方法(ガム咀嚼)、実験パラダイム、MRIの撮像シークエンスについての検討を行い、ボランティア5名のガム咀嚼実験による脳活動を解析した。その結果、感覚運動野・補足運動野・島・弁蓋・視床・小脳・前頭前野・海馬に賦活を認めた。また、同時に、ASLという新しい手法を確立し、ボランティア5名に対してガム咀嚼実験による脳血流に及ぼす影響(脳活動の大きさ)を、経時的・定量的に評価した。 顎運動が脳循環におよぼす影響を定量的に検討した報告は皆無であると言っても過言ではなく、本研究は咀嚼機能治療法の開発、咀嚼方法、脳活性に有効な食品開発などを提示する上で大きく貢献するものと確信する。
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