歯科矯正治療の基盤は歯に矯正力を加えて動かすということであり、この基本は変わらない。歯科矯正治療の課題として審美性の向上や疼痛の軽減、清掃の簡易化などが挙げられるが、その治療期間の長さから治療期間の短縮も大きな課題の1つである。近年、様々な材料の開発やメカニクスの研究により治療の効率化がなされ、治療期間の短縮が図られるようになってきた。しかしながら、その効果はまだ十分とは言えない。 歯科矯正治療は生体反応を利用した治療にもかかわらず、生体自身に対するアプローチはほとんど行われておらず、生体反応をコントロールすることでさらなる治療期間の短縮が可能になると考えられる。 本研究では、整形外科や他の歯科分野でも用いられる多血小板血漿(PRP)用いて歯の移動の効率化を図ろうとするにあたり、マウスの歯の移動の実験モデルを用いて基礎的なエビデンスを得ることを目的とする。 歯の移動に対するPRPの効果の検討をおこなった。マウスの上顎切歯部歯槽骨と左側第一臼歯間にのクローズドコイルスプリングを装着し、第一臼歯を近心移動した。PRPは同種マウスの心臓より採血を行い、遠心分離した。歯の移動開始時に左側第一大臼歯頬側皮下にアクチベーターを混合して活性化したPRPを注射した。12日後に歯科用シリコーン印象材を用いて上顎を印象採得し、第一臼歯と第二臼歯間距離を実体顕微鏡下で計測し歯の移動量とした。 PRP投与群とPBS投与群(対照群)において歯の移動量に有意な差は認められなかった。しかし、PRPの至適量が不明であるので、投与量や方法に工夫が必要だったのではないかと思われる。
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